Ginza Music Concierge:Artist Interview

Ginza Music Concierge

ギタリスト 石川鷹彦:マイクレスで聴衆に届けられたアコースティックの真髄。

『LL-TAKA Limited』に理想とするギターを見た

石川鷹彦さんと、ヤマハの付き合いはなんと約40年にもわたる。1971年に発売されたギター『FG2000』の試作品をチェックしてほしいとの依頼を受け、浜松にあるヤマハのギター工場へ訪ねたことからそのつながりは始まった。以来、アドバイザーの役割を果たすべく、年に数回の頻度で工場へ出向いている。

「1966年に発売されたヤマハのフォークギター、『FG-180』の音が良くて、仲間内で話題になっていたんですよ。当時はマーチンやギブソンなど、外国製を使っている人がほとんどだったんですが、『日本でこんなにいい音がするギターがやっとできたんだ!』と感激したものです」

2011年6月、ヤマハアコースティックギター Lシリーズ 石川鷹彦シグネチャーモデルが発売された。ヤマハが造るアコースティックギターのフラッグシップモデル、Lシリーズのブレイシング(力木)を基に、石川さんが長年愛用する前述の『FG2000』や『LAカスタム』のテイストを加えている。ヤマハ独自の技術「A.R.E(*)」を施した材木、シトカスプルースが、重厚な低音と艶のある高音を実現した。

「自分の中で理想的なギターの音、形が僕には明確にあるんです。『LL-TAKA Limited』は、今までの中で理想の音に一番近い音だった。低音がよく響いて、それでいて高音もチャリーンと鳴る。最高のバランスなんだよね」

理想の音が明確であるだけに、ヤマハの技術者との目標共有もしやすかったようだ。しかし、石川さんが理想に固執してばかりかというと、そんなこともない。理想と違う「面白い響き」は第一印象がよくないものの、数年弾いているうちに惚れ込んで手放せなくなることもあるのだという。

「そういう意味ではギターって、女性と似てるよね。付き合いが長く深くなるから、奥さんのポジションなのかも(笑)」

なるほど、ギターとの付き合いは実に奥が深い。

ヤマハホールならではの「マイクレス」という珠玉の体験

2011年7月16日の「石川鷹彦 Special Live」は、『LL-TAKA Limited』の発売記念公演として行われた。ぼんやりと照明が灯る舞台中央に置かれた『LL-TAKA Limited』を石川さんが愛おしそうに抱え、ステージは始まった。

第一部の最初につま弾いたのは、静かな旋律の『無憂樹』。甘みを持たせながらもエッジが立ったシャープな音が印象的だ。ギターを弾き始めてアルペジオに感動したこと、メロディが入ったアルペジオの練習が楽しくて曲を作り始めたことなどを話しながら、曲はスリーフィンガーで弾く『Scots Hill』へ。公演のたびにアレンジを変えるという『イーハトーブの朝』、70年代から弾き続けているデイビー・グレアムの名曲『Anji』など8曲を華麗に奏で上げた。

第二部は、『LL-TAKA Limited』を手にしたシンガーソングライターの森山直太朗さんを迎えてのステージ。石川さんと森山さんのお付き合いは、森山さんが子供の頃からと極めて長い。「直太朗のお母さんの、森山良子さんが音楽仲間だからね。ちっちゃい頃からウチの娘と遊んだりしてたよ」と石川さんは言うが、音楽活動を共にしたのは石川さんがプロデュースした森山さんのアルバム『あらゆるものの真ん中で』(2010年6月発売)が初めてだ。同年12月には、石川さんがプロデュース、アレンジ、録音、ミックスまで手がけた『レア・トラックス vol.1』を発売した。

ステージでは、それぞれの曲にまつわるエピソードなどを交えながら7曲を披露。シングルとして発売した『花鳥風月』のほか、独特の声色でのセリフが入る『臆病者』、森山さんの歌い方に感化されてリードギターのフレーズが浮かんだという『友達だと思ってたのに』など。

生で聴いた森山さんの声は、極めて大きなインパクトがあった。例えるならば「とてつもなく鳴りのいい弦楽器」。そこに絡むギターは歌声サポートしながらも存在感を静かに、確かに醸している。ギターと声、歌詞に装飾がないぶん、プレイヤーの心がダイレクトに伝わってくるようだ。私たちの心を掴み揺さぶる、アコースティックの真髄。それを感じ取った聴衆も多かったのではないだろうか。

さらにアンコールで私たちは、決してほかではお目にかかれない珠玉の体験をすることになる。マイクレスで奏でた『生きてることが辛いなら』。ヤマハホールの際立った音響を生かした、まさに楽器同士の饗宴と呼ぶにふさわしい両名の「音」は、これ以上ない純粋さで私たちの耳にしっかり届けられたのだ。

歌声に創作意欲が刺激される

石川さんと森山さんは現在、共に創るアルバムとしては3枚目に取りかかっている最中だ。年内には発売される予定だという。

「直太朗の歌い方はいい意味で『揺れ』が大きい。それにすごく曲を大事に歌うから、ギター一本で歌ってるのを録音しただけで『このフレーズにはこんな音を入れたい、アレンジしたい』というイメージがサーっと沸くんだよ、本当に!」

眠ろうと思って床についても、さまざまなアレンジが浮かんでしまうほど創作意欲がわき上がるのだという。結果、空が白むまで夢中で作業を続行してしまう。

「普段、アレンジでそこまで考え込むことはないんだけど…。そこまで夢中になれるのは久々なんだ」

そのレコーディングにも、『LL-TAKA Limited』が使われているに違いない。初めて2人で行った公演を経て、石川さんと森山さんの音作りに変化は起こっただろうか。ふたりで創り上げる次作からは、ヤマハホールで奏でられたネイキッドな響きも読み取れるのかもしれない。

演奏リスト

1. 無憂樹(石川鷹彦)
2. Dori(石川鷹彦)
3. 晩鐘の丘(石川鷹彦)
4. イーハトーヴの朝(石川鷹彦)
5. Scots Hill(石川鷹彦)
6. Running water(石川鷹彦)
7. 月下想樹(石川鷹彦)
8. Anji(石川鷹彦)
9. 花鳥風月(石川鷹彦/森山直太朗)
10. 結婚しようよ(石川鷹彦/森山直太朗)
11. 臆病者(石川鷹彦/森山直太朗)
12. 友達だと思ってたのに(石川鷹彦/森山直太朗)
13. うんこ(石川鷹彦/森山直太朗)
14. まかないが食べたい(石川鷹彦/森山直太朗)
15. 夜の公園で渡すつもりのない手紙を書いている(石川鷹彦/森山直太朗)
─アンコール─
16. 生きてることが辛いなら(石川鷹彦/森山直太朗)
17. 今も想いは変わらぬままに(石川鷹彦)

プロフィール

石川鷹彦
1943年、北海道札幌市生まれ。日本のアコースティック・ギタリストの草分けにして第一人者。1968年から、スタジオミュージシャン、アレンジャーとしての活動を開始。70年代フォーク、ニュー・ミュージックの名曲に驚くほど多く携わっており、各ミュージシャンの絶大なる信頼を得ている。アコースティックギターのみならず、マンドリン、バンジョー、ブズーキ、ドブロ、そしてシンセサイザーのプログラミングをもこなす。現在は年間100本以上のツアーサポートをする傍ら、自身の作品を精力的に制作中。
※A.R.E.(Acoustic Resonance Enhancement):温度、湿度、気圧を高精度に制御することにより、木材のミクロな物性を長年使い込まれたビンテージギターと同様の状態へ変化させる、ヤマハ独自の木材改質技術
Top Page