Ginza Music Concierge:Artist Interview

Ginza Music Concierge

トロンボーン奏者 中川 英二郎:人間の声に一番近いトロンボーン。その魅力を、より多くの人に知ってほしい。

「Sing Sing Sing」のメロディがトロンボーンに興味を持たせた

スライド管で音程をコントロールするトロンボーン。それはまるで、人間が歌声を喉でコントロールしているかのようだ。

中川さんは、ヴァイオリン奏者の祖父、トランペット奏者の父、クラリネット奏者とトロンボーン奏者の伯父を二人持つ。生まれたときからサックス、トランペット、ピアノ、ベース、ヴァイオリン等々、多様な楽器の音色に囲まれた生活。いわばどの楽器を選ぼうがよりどりみどりの状態だが、とりわけトロンボーンに興味をそそられたのはなぜなのだろうか。

「演奏時に伸び縮みするのが面白かったのかな? 直接興味を持ったきっかけは、ベニー・グッドマンの『Sing Sing Sing』を耳にしたこと。トロンボーンが活躍する有名なフレーズが印象に残ったんです」

5歳でトロンボーンを吹き始め、8歳で父のバンドの準メンバーとして活躍。15歳でレコードデビュー、16歳で初のリーダーアルバム『EIJIRO NAKAGAWA & FUNK '55』を発売。今年はデビュー30周年。30歳代半ばにして膨大なキャリアを積んできた大ベテランだ。

そんな中川さんが、去る2010年12月24日、銀座のヤマハホールで「クリスマス スペシャル Jazz Live Vol.1」を行った。ヤマハホールでの演奏は、こけら落とし公演の「オープニング ジャズ フェスタ」に続く2度目だ。そのときはジャズマンが集結したが、今回のライブはタイトル通り「スペシャル」感を大切にしようと考えた。

声をかけたのは、本田雅人さん(サックス)、青柳誠さん(ピアノ)、梶原順さん(ギター)、則竹裕之さん(ドラム)、中村健吾さん(ベース)。フュージョン界でリーダーとしても活躍する巨人たちだ。

「それぞれの持ち味を存分に発揮しながら、僕の音楽を一緒にやったらどんな化学反応が起きるのか、すごく興味があった」という中川さん。このスーパーバンドに本田さんの提案で女性ボーカルのティファニーさんも参加し、より華やかなメンバー構成になった。

聖なる夜に豪華メンバーが集結。そして、大切な人に捧げたナンバー

クリスマス・イブの夜をスペシャルなジャズの時間で過ごそうと、客席は幅広い年齢層のジャズファンで埋め尽くされていた。

ライブは、「このメンバーで演奏したら絶対に楽しい」と考えながらチョイスした『Journey Of A Rose』で幕を開けた。2007年のアルバム『E』からピックアップした曲。中川さんのトロンボーンは限りなく柔らかく、優しく、伸びやかな音で、ゆるやかな曲調とも相まってゆったりした懐の深さを感じさせる。

第一部で披露した5曲は、すべて中川さんのオリジナル曲だ。そのうち3曲は、この日のために書き下ろした完全なる新作。アップテンポの「Coast Line」は、とりわけサックスとフルート双方を駆使する本田さんのソロが印象的。ムーディでしっとりした曲調ながらも、メンバーそれぞれの超絶テクニックや音楽性が表現された「Focal Point」、ドラムとトロンボーンとの息の合った掛け合いに胸躍る「Secret Gate」(アルバム『E』より)などを披露した。

第二部は本田さん作曲のファンクナンバー「Funky Monsters」でスタート。一部とは雰囲気ががらりと異なったそれぞれのソロプレイに、「このバンドはどれだけ奥が深いんだろう」、そんな思いでステージから目が離せなくなっていた。

そして、いよいよボーカルのティファニーさんが登場。ライブのテーマであるクリスマスにちなんだ曲の披露だ。クリスマスに教会で幼い頃から歌っていたという賛美歌「Amazing Grace」、R&B界の巨人、ダニー・ハサウェイの「This Christmas」など3曲が、よく延びる透き通った声で歌い上げられた。あるときはキュートでポップに、またあるときはソウルフルに。

中川さんのライブにおいては、MCに割く時間はさほど長くない。だが、今回のライブでは溢れんばかりの想いを伝えたい、特別な曲があった。

それは、ホウギィー・カーマイケル作曲のスタンダードナンバー、「Stardust」だ。2010年9月に亡くなったトロンボーンの名手、谷 啓さんが愛して止まなかった曲だ。

「僕は子供の頃から谷 啓さんにお世話になっていました。中学生になってからは彼のバンド『スーパーマーケット』でご一緒させてもらって。僕が『Stardust』のソロを演奏すると、必ず舞台袖で『いいね、いいね』とうなづきながら聴いてくれていたんです」

遡ること2年前、谷さんにとって最後の演奏会でも「Stardust」を共に演奏した。体調が優れないのは知っていたが、事故で亡くなられたという突然の知らせは、とにかく驚きでしかなかった。いまでも亡くなったことが信じられないんですよ。そう中川さんはつぶやく。

「この曲を、谷さんに捧げます」

憧れを持たれるプレイヤーになりたい

前述の通り、2011年は中川さんにとってデビュー30周年という大きな節目の年だ。「天才少年」の名を馳せた中川さんでも、自分の思い通りの音が出せたと実感したのは10歳代後半。1996年の読売交響楽団との共演で「トロンボーンコンチェルティーノ」を演奏、本格的にクラシックに触れたことが表現の幅を広げた。それ以来、4、5年毎に何かの形でターニングポイントを迎えているという。

2006年に結成した金管八重奏ユニット「侍ブラス」の結成と成功も転機のひとつだ。メンバーはすべてクラシック出身で、アンサンブルではあまりお目にかからないユーフォニウムが加わっている。さらに、他に類を見ない「八重奏」。1曲も聴かせていない状態で「絶対に成功する」と惚れ込む人がいた一方、「過去に前例がないから受け入れられない」と眉をひそめる人もいた。

「楽曲はすべてオリジナル。初めてのコンサートでは、観客は入るだろうか、最後まで帰らずにいてくれるだろうかと、不安で不安でしょうがありませんでした。アンコールまで辿り着いて初めて、『受け入れてもらえたんだ』とようやくホッとできた」

こういった新たな試みと積み重ねてきた努力、そして成功体験が、中川さんにとっての揺るぎない自信となっている。

トロンボーン奏者の第一人者として確固たる地位を築いた中川さん。今後はどのような活動を考えているのだろうか。

「トロンボーンという楽器をもっと広めたいですね。楽器自体はメジャーなのに、音は知らないという人がたくさんいますから」

そのために、ステージを中心としたアーチストとしての活動を増やしていく考えだ。これは、次世代のトロンボーン奏者を育てる狙いもある。

「かつて自分が尊敬するプレーヤーを目指して練習に励んだように、今度は自分が若い世代に憧れを持ってもらえるような存在になる。生きている限りいつまでも、その決意は変わりません」

ジャズの世界では、60歳、70歳で活躍する大御所プレーヤーも決して珍しくはない。「30年経っても66歳。生きている限り、音楽活動を続けていきますよ」。話を続ける中川さんの目は、まっすぐに前を見つめていた。

演奏リスト

1. Journey Of A Rose
2. Coast Line
3. Focal Point
4. A day in NYC
5. Secret Gate
6. Funky Monsters
7. My Favorite Things
8. Amazing Grace
9. This Christmas
10. Stardust
11. Into The Sky
─アンコール─
12. Jingle Bells

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